友人である鈴木の様子が少し変わったことに気づいたのは、数ヶ月前のことだった。以前は、会話の端々に自らの薄毛を嘆くような自虐的な発言が多かった彼が、どこか落ち着いた雰囲気を纏うようになっていたのだ。何か良いことでもあったのかと尋ねると、彼は少し照れくさそうに「ネトル茶を飲み始めたんだ」と打ち明けた。最初は、よくある気休めのようなものだろうと高を括っていた。しかし、彼が語るその習慣は、単なる薄毛対策という枠を超えているように思えた。彼は毎朝、丁寧に淹れたネトル茶を飲む時間を設けているという。その五分間は、仕事や人間関係のストレスから解放され、自分自身と向き合うための大切な儀式なのだと彼は言った。ハーブの香りが立ち上る湯気を眺めながら、今日一日の目標を考えたり、ただ心を無にしたりする。その穏やかな時間が、彼の精神的な安定に繋がっていることは明らかだった。外見的な変化も、少しずつではあるが現れていた。以前よりも髪にハリが出てきたように見えるし、何よりも彼の表情が明るくなった。以前はどこか自信なさげだった彼の目には、静かな自信が宿っている。彼自身も「抜け毛が少し減った気がする」と嬉しそうに話していたが、それ以上に、生活にポジティブな習慣を取り入れたことによる内面的な変化の方が大きいようだった。もちろん、ネトル茶だけで髪が劇的に増えるわけではないだろう。しかし、鈴木にとってその一杯は、自分を大切にし、生活を丁寧に見直すきっかけとなった。彼の変化は、薄毛という悩みへの向き合い方が、人生そのものの質を変えうることを静かに物語っていた。