僕が最後の砦に懸けた日のこと
鏡に映る自分を見るのが、日に日に苦痛になっていった。フィナステリドを飲み始めて二年。確かに抜け毛は減り、現状維持はできていた。しかし、僕が望んでいた「改善」には程遠い。このまま時間を浪費するだけではないか。そんな焦りと諦めが入り混じった感情を抱え、僕は再びクリニックの門を叩いた。医師は僕の話を静かに聞いた後、「次の選択肢として、デュタステリドを試してみますか」と提案してくれた。より強力な薬。それは、大きな期待であると同時に、未知の副作用に対する底知れぬ不安でもあった。数日間悩み抜いた末、僕は決断した。このまま何もしなければ、後悔だけが残る。可能性があるなら、それに懸けてみたい。処方されたカプセルを初めて手にした時の、ずしりとした重みを今でも覚えている。それは薬の重さではなく、僕の決意の重さだった。服用を始めて一ヶ月が過ぎた頃、悪夢のような初期脱毛が始まった。シャワーを浴びるたびにごっそりと抜ける髪に、何度も心が折れそうになった。しかし、これは薬が効いている証拠なのだと自分に言い聞かせ、耐え抜いた。そして三ヶ月が経つ頃、変化は訪れた。明らかに、抜け毛が減った。そして半年後、鏡の中の自分を見て、僕は思わず声を上げた。生え際に、産毛がびっしりと生えていたのだ。それは、長いトンネルの先に見えた、確かな光だった。デュタステリドは、僕にとって単なる薬ではない。諦めかけていた人生に、もう一度立ち向かう勇気をくれた、最後の砦なのだ。